Wednesday, November 10, 2004

ピアノ調律

今日はそろそろ一年目になる自宅のピアノボストンGP193を調律した。
http://www.steinway.com/boston/models.shtml

購入ディーラー グリーンミュージック所属のピアノ技術士ジョッシュが担当である。
彼は若いけど(32ぐらいだったはず)サービス部門のボス、マーク・アダムス氏によれば「若いけど僕のおめがねにかなった技術士」という事である。
アダムス氏のように「僕はスタインウエイしかサービスしない」というわけではないので彼が家のボストンを担当してくれているわけだが、私の細かい注文にきちんと説明とともに答えてくれるので満足である。

本当ならボストンは家庭での無料調律サービスは一回しか付いていないのだが、私の家に到着する前に一応店で調節・調律するはずが明らかにされていなかったので、今回のサービスも繰り上げで無償サービスという事だった。(いや、すでにアダムス氏にも来てもらったので、私は払うつもりだったのだが、「お勉強させていただきましたので」という事らしい。)

ジョッシュによると、「うるさい顧客」はそれほど多くないので、たまにボストンの顧客でも私のように「こだわりのある顧客」がいればサービスするのは店としても、サービス部門としても特に損はないので良いのだ、という事である。前に私も書いたように、「うるさい顧客をハッピーにしておけば将来店としての評判にもつながる」ので皆喜んでやってくれる。
スタインウエイの顧客はそれらのサービスが値段に含まれているのだが、多く見ても約半分の購入者だけが実際の調整を事細かに依頼するのだそうだ。 つまり、残りの半分(彼はもしかしたら4分の3とも言っていた)の顧客は「スタインウエイのピアノを家に置きたいだけ」の金持ちだそうだ。なんと言う無駄。でも「スタインウエイは財産価値のある投資高級家具」という考え方も絶対にあるのでお金の有り余る人はそれでいい。

それで今回の調整。
ピッチは440ヘルツに下げてもらおうと思ったのだが、今のところ442ヘルツでかなり安定しているのでそのままキープすることにした。(ヴァイオリンをわたしは普通440で調音するのでそうしようと思ったのだが、ヴァイオリンを442にするほうがピアノを440に下げて、また音程が狂いやすくなったり音色などに影響したりするよりは簡単だしということで、とりあえず少しブリリアントな音の442で。)でも、私はやはり暗めで甘い音が好きなのは変わらない。

幾つか外れている音があるものの、アダムス氏が前に行った調整のお陰でそれ以来かなり安定している。ところが、ソステヌートペダルはがたがた。効く鍵盤と効かないのがばらばら。鍵盤のメカにフェルトのフックのようなのがあって、それをペダルで操作する真鍮のアームで引っ掛けるのだがそれが巧くいっていなかった。その後ねじを全て締めなおし。

アクションをはずした後、鍵盤アクション部分・ハンマーがそれぞれの音程で完全に弦に均一に当たるように鍵盤部分を固定しているブロックに少し厚紙を貼って間隔を微調整。 
グランドピアノの弦は二ミリ間隔程度で張られているのでハンマーがきちんと当たる、弦がブリッジに均一に当たっているという事は音色や音程に影響するのだ。
ヴォイシングをするときは、弦の高さも厳密に調整するのだ。(まだヴォイシングはしていない。弦が完全に伸びきり、サウンドボードなどが環境に順応しハンマーがある程度固まって安定してきたらするつもりである。当初よりブリリアントな音色になってきたがまだ私の「嫌いな硬い音」ではなく、バランスは取れた音色だ。これが「キンキラキン」になってきたらハンマーなどの調整もかねてヴォイシングをする予定である。
一年未満だがフェルトにはかなり弦を叩いた溝が付いているのでフェルトを削って均一にする作業もその頃必要になるだろうという事だった。

ジョッシュによると、多分私のペースでピアノが使われている場合、多分4-5年目でハンマーのフェルト、ハンマー自体を取り替える事になるかもしれないという事だった。そして10年目ぐらいにはアクションのメカもかなり入れ替えが必要になっても驚かないようにといっていた。(いや、その頃にはスタインウエイを購入したい、とは言わなかった。)

今回はジョッシュに特にお願いしたのは連続打音の時のレスポンス。特に完全に鍵盤を押し切り完全に上がるまで待つ連続音ではなく鍵盤の4分の1と4分の3の間の往復のような連打。
重さの問題ではなく、軽くて弱い音でもしっかり早い音が鳴るような調整だ。
コレをすると、メフィストワルツの出だしのようなかなり早い和音連打やカンパネラのテーマのようなソフトな音で跳躍連打などがある場所、装飾音などで非常に粒の揃ったデリケートな表現ができるようになる。
ほかにはソフトペダルを少し調整した。ペダルがダンパーにあたる場所が皮なのだがそれが少し押されて薄くなっているのでペダルをきちんと当たるように微調整。そんなに使ってないのだが。

後は普通の調音。
それでも全部で4時間ほどの作業。朝8時半ごろから午後一時近くまで。

音色の変化はなし。調律すると突然変化したように感じることがあるが、それはなかった。でも弾き心地は注文どおり。つまり、もう「安物のピアノだから」といういいわけがあまり効かない状態。(笑)いわゆるスタインウエイの「鍵盤の浅さ」はないが、高級ピアノの弾き易さはきちんと持っている。いや、本当に技術者と調整次第でかなりピアノは変わるものだ。
アレだけ部品数が多い機械なので、調整しないで「弾きやすくなる様に期待する」というのは間違っている。やはり弾く本人が「自分の欲しい音、好きなタッチ」をよく知っていて、それを技術士とよくコミュニケートすることが必要だと再度、痛感した。 
ジョッシュが違う作業に入るたびにいろいろ質問してどういう調整がされているのか、その作業がどれに、何に影響するのかなども教えてもらう。彼等は完全に機械を調整する完全に物理学的な理屈で作業をしているが、私たち弾くものはかなり主観的な感覚によって「好み」をコミュニケートするので、彼らの作業を理解することによって次回は自分の好みを的確に伝えられるようにするのだ。

もちろん、知らなくても彼等はだいたいわかってくれるしアダムス氏のように熟練職人だと、言わなくても勝手に思ったよりよく調整してくれたりするわけだが、自分にとって重要なクオリテイ(音色でも、タッチでも)は妥協しないで「こういう風にして欲しい」というと、適当な方法を見つけてくれるのだ。

現在彼らのショップ(工房、仕事場)にはフランツ某(彼はスタインウエイの技術者としての経験を書いた本も出しているらしい。)という、ホロヴィッツやグールドのピアノを担当してきたつわものが居るらしくて、それらの巨匠のエピソードなどもジョッシュから聞いた。
調整が終わった後、ホロヴィッツの横で何が起こるかとはらはらしていると案の定グランドのツッかえ棒を手で乱暴にはたきあの重い蓋をピアノの上に「バターン」と落とした後、部屋に閉じこもり昼寝してしまったホロヴィッツ。理由はわからないそうだ。彼にしかわからないミスなのか、何かの音が耳に障ったのか・・・
また、グールドに頼まれてリビルドを監督しようとしたのだが、時間がなく付きっ切りで出来なかった。それをスタインウエイの工房がリビルドしたのだが出来たものを彼がチェックするとグールドの好みでは全然なくてコレは災難の前触れだ、と予言すると、グールドは「こんなの、もう僕のピアノじゃない」と泣き出して結局最初からやり直し。彼が今度は一人で全て担当したのだが、グールドはその完成を待たずにこの世を去ったのである。
それやら、ランランの話、サンデイエゴに居るある天才児の話・・・。

他には、現在彼らのリビルドしている1920年代のNYスタインウエイOモデル(現在NYはOモデルは作っていないはず)や、新しい鍵盤の重さを磁力によって調整するためのメカニズムを搭載中のMモデルなど。調整が終わったらジョッシュは私に連絡をくれることになっている。店に出したらすぐ弾きに来てくれという事だった。

というわけでまた練習に励むことにする。近日、お隣さんなどを招いてご披露しなければならないのだ。

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