Wednesday, December 08, 2004

またまた、ピアノ調整

うちのBOSTON GP-193である。

2週間ほど前に調律したばかりなのだが、その直後からとんでもない『バズ-日本語だとビビりとでも言うんでしょうか』が全音域で耳に障るようになった。

上から三つ目のCの音域は購入当初から不安定でなんとなくそれもあるのだが、全音域に影響したのは初めて。
おまけに今季は記録的降水量をすでに経験しておりピアノの木材が大幅に伸縮していることは簡単に想像できる。

おなじみのジョッシュに泣きつきの電話。

「もしかしたら蓋のねじかもしれないけど、一音一音弾いても再現できないのよ。でもいろいろな曲を弾くととんでもない調子はずれの「バズ」が耳に障って・・・」

「うーん。考えられるね。全部ねじ締めた後で、どの程度よくなるかチェックしてみようね。どちらにしても原因は突き止めてあげるよ。」

というわけで、昨日の昼彼が自宅に現れる。

「どの音?」
「このCの前後、とくにC#、C G、F、あたり。」

彼は楽譜がなど載った状態(つまり通常私が弾く条件、不要な楽譜が積み上げられ鉛筆などが散乱している)
楽譜や鉛筆を下ろした状態
蓋を半開きにした状態(よく使う)
蓋を全開にした状態(たまに使う)
蓋を閉鎖した状態
全開にして、楽譜立ても除去した状態(調律状態に近い)

で、それらの音域、それから私が簡単なフレーズを両手で再現。
その間、蓋や骨格のねじを全て締めるが高音域のバズはなくならない。

その後彼はいろいろチェックした後こういう診断をした。

私の聞こえているのは高音域のカポから弦を止めている釘のあいだの弦が振動している倍音らしいのだ。勿論、これはどのピアノにもあるものだし、個々のピアノの音質キャラクターを構成している要素でもある。ただ、一音につき弦が三本、そしてカポは手前(つまり鍵盤すぐ上)とハープ部分の最先端にもあるわけで、ハンマーが打っている肝心な部分のほかにもそれぞれが鳴り響いているのだ。
そして、和音などが鳴れば実際に弾いている音のオクターブ上の弦も同時に振動する。なんとこのカポから弦の釘の間の音を調律することさえ出来るのだ。

前に書いたようにこの音域は不安定で三本の弦のうち一本が少しでも狂うと、私にとっては『気持ち悪いほど』しっくりこない響きに聞こえてしまうのだ。私は三本のうち一番低音側が少し低いことまで知っている。

ジョッシュはわたしが『暗めで甘い音』を好きなのはよく知っているから別にピアノが調子悪いわけではないが『好みに合わせるために調整する方法』を説明してくれる。

問題音域の弦にフェルトをいれ振動を抑えるのだ。

フェルトはハープ部分先端にある弦を止めている釘の下などにも挿入されているが、同じような原理である。
ただ、最高オクターブ部分は(つまりダンパーの無い音域)はこのピアノのキャラクターを左右するのと、そこまで倍音を抑えてしまうと実際に低音域と音量が対抗できないほどバランスが悪くなるのでそこにはフェルトを入れないことにした。

若手でまだ修行中だが、自分の仕事を愛し誇りを持っているジョッシュはある意味で『理想のピアノ調整技師』であるのだ。
彼は自分の師なら多分私のピアノを最初に聞いたときに上の診断をすぐに下しただろうといった。つまり経験によってそのぐらい的確にしかも、簡単に症状とレメデイの判断ができるのだ。

「僕は幾つかやって、いろいろ考えてそこにやっと到達したわけだが・・・」
とジョッシュは満足そうな笑みを浮かべ長いポニーテールを背中に押しやるのだ。

「フェルトをいれたあと、もう一度全音域の調律をチェックするね。倍音が聞こえるはこの音域だけでも狂っている音の倍音がたまたま他の低音と一致したりすると、君にはわかってしまうようだからね。そして2週間ぐらいして君の耳がこの処置に慣れたらどう思うか教えてくれ。」

***
「一応今日できることは全部終わったよ。弾いてみてね」

私は覚えたてのバラード一番のアジタート部分とソットヴォーチェ部分を通しで弾いてみる。

「ああ~気持ちいい。いいおと。直ったみたい。私に倍音はまだ聞こえるけど気持ち悪い響きは無いし。」

ジョッシュは笑って
「倍音はあるのが普通なんだよ。でも、低音域も結構狂っている音が幾つかあったからそれが影響してたのかもね。今年は君のピアノは3ヵ月おきに調律してみたらどうかな。」

私は確かに必要かもしれないと即座に同意する。

「普通の人なら二年目は6ヵ月おきでも充分だけど、君は自分の好みがはっきりわかっているし、普通の人より違いが弾きながらすぐわかっちゃうしね。これだけ頻繁に、それもかなりアグレッシブに練習するならピアノが安定するまでそれでやってみよう。
僕の師(あのアダムス氏。一度来た事がある。)はあのピアノ教本のジェーン・バステイエンさんのスタインウエイも3ヵ月おきに調律しに行くんだ。彼女は自宅に7台ピアノがあって、娘さんの所にも4台あるんだけどね。でも家でたくさん教えているからそのぐらい必要なんだ。」

彼はそれに付け足した。

「君みたいな人のために働いているとね、僕も技師として成長が早いよ。」
と笑ってお辞儀する。

「いや冗談は抜きにしてそういう人に出会わないと技師はただ毎回調律して終わり。弾く人に何も言われなければもしかしてまるっきり的外れな事をピアノに処置して、そのままそれでいい、と技師自身が自己満足することになりかねないんだ。

あなたに『こういう音にして欲しい』といわれることによってこのピアノではどう処置すればそれに近くなるのか、ということを学ぶ機会が与えられるからだ。
勿論いつかは僕もスタインウエイの技師になりたいが、修行中に『いろいろなケース』を学ぶ機会がないと技術は身に付かないんだ。
僕がサービスすることで、同時に店は顧客満足に努めることが出来るし、君はこのピアノを買ってよかった、そして自分のピアノにさらに愛着が沸くし、もしかしたら10年後にはこの店から今度はスタインウエイを買ってくれるかもしれない。つまり、皆満足、というわけさ。」

ということでまた無料サービス。
「いや、一年に4回は全然悪くないよ。」
「じゃ、今日のお昼代は私が・・・」
とチップの20ドルをわたす。

「ありがとう。電話してどんな調子か教えてね。」

と扉で彼が帰り際、師のアダムス氏から電話が入る。
「ああ、いまちょうどドアを出るトコなんですがカポ部分にフェルトを入れて倍音を少し消して、彼女は今のところハッピーなので・・・」
と報告。アダムス氏もそれでいいんじゃないかとのコメントだったとのこと。


***

ボストンGP-193はとてもいい楽器である。

構造的にはスタインウエイのいいところを受け継いでいて(上の高音域カポの構造もスタインウエイが最初に開発して、現在はいろいろなメーカーがコピーしているものの代表例)さらに音質的に最新技術を導入してより豊かな音質を出せるように設計されている。
特に中低音の豊かさは私はスタインウエイの同サイズを完全に上回っていると断言できる。
(つまり、スタインのMモデルぐらいにならないとあのパワーのある低音が出ない)

素材などは実はスタインよりいいパーツも使っていたりする。音質と直接関係ないがプラステイックを使っているスタインに比べるとボストンは『人口象牙』を使っているところとか。値段が格安なのはパーツを量産して河合の工場で制作しているからである。量産しても品質管理の厳しい日本の工場システムがボストンを可能にしているのだ。

193センチという大きさがチャチい楽器と違って技師にとってもやりがいのある『技術ケース』を提供するのだ。そして弾くほうの私にとっても『こういう音がいい』というと、それを実現できるだけの素材がGP-193さには備わっている。これは結構重要だ。定価はお手ごろでも手を掛ければそれなりの音になる楽器というのは最初から不可欠な条件だった。
その点、私のセールスマン、フレデイは的確に私の好み(その時点では自分でもはっきり意識できていなかったが)を見抜いて店で私と『相性の合う楽器』に引き合わせてくれることが出来た、ということはある意味で驚嘆に値するわけだ。そして、ただ、倉庫にある同モデルを搬送するのではなく特定の楽器を私のために他の人に売らないように手配してくれるあたり、さすがと思わずにはいられない。
もう一年になるわけだが。それらを再認識した。

前にも書いたとおり、今年の後半に調律をA=440に下げて(今は443私が受け入れられる限界。それでも「少しブライトかな~」と感じる)ヴォイシングをすることになるだろうが非常に楽しみである。



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